バイクの電気系統に難解なトラブル発生!
  ”バイクの電気系統なんて、ダイナモで発電して電圧調整してバッテリーに溜めこむだけだよ、エンジンの付いたチャリンコだろなどと安易に考えていました。
 ま、バイク等ではダイナモではなくて、3相交流発電機=オルタネーターで発電するわけですが・・どちらにしても、トラブルが発生した場所なんて簡単に見つけられるよと、高を括っていたわけです。
ある日のこと、バイクのバッテリーの充電がおかしいと相談を持ち掛けられるところから始まってしまったのです・・・・。

 相談してきた人は、バイクやクルマの構造、内装から電装等を細部にわたるまで把握しており、疑わしいバッテリーも交換済みだということでした。
 車のバッテリーは、サルフェーション(バッテリーの電極に白い結晶=硫酸鉛が付着し蓄電力が低下すること)が起きるから、一度でもバッテリーをあげちゃうとだめだよなど、交換後にもバッテリーにトラブルを起こしたことはないかどうかを投げ掛けてみました。
 すると・・バッテリーは予備を2個持っていて、<AC100Vを使って充電できる機械>で、毎日充電し交換して使用しているとの答えが返ってきたのです。
 ははぁ・・こりゃサルフェーションに間違いないな・・過放電で新品バッテリーも弱っちまったんだろ・・それにAC100Vでバッテリーに充電する機械?信用できるシロモノなんだろうな・・うん、サルフェーションに決まり!と、心の中で静かに断定したのです。
 因みに・・バッテリー=鉛蓄電池は鉛の電極を希硫酸に漬けた物で、陽極は二酸化鉛という茶色い物質でコーティングされています。
 放電時に生成される硫化鉛が電極に付着すると、スポンジ状に細かく加工された電極の表面積が低下してしまいます。表面積の低下は蓄電力の低下であり、バッテリーが充電されていない状態で電気を流し続けると電圧が10V以下に達したあたりから急激に進行してしまいます。こういった現象をサルフェーションといいます。
 バッテリーの充放電は物質の化学反応なので、化学反応が起き辛い状況が生まれるとバッテリーの性能が低下することになります。電極に付着した硫化鉛は容易に溶けない状態になるため結晶性サルフェーションとも呼ばれるようです。
 早速、バッテリーの調査を開始!
 ”ん?エンジンを回してもバッテリーの電圧が変わらないぞ!?11.8V付近から少しづつ電圧低下している・・おかしい・・
バッテリーが劣化しているとはいえ、充電が始まれば電圧は上がる理屈のはずである。以前にも車の劣化したバッテリーが、エンジンがかかると14V近くまですぐに上昇した記憶がある。
 彼は長年の経験から既に、バッテリーには問題はないと断定していた。そして、充電電流ラインにある電圧調整機=レギュレータレクチファイヤを発注していたのだ!
 なるほど、バッテリーへの充電が全く行われていないのだから一番疑わしい箇所だ。
レギュレータレクチファイヤ写真
上図がレギュレータレクチファイヤ(レギュレートレクチファイヤともいう)である。インターネットで調べてみると、新旧2種類が存在し旧型は壊れやすいとのこと。上図の左側が旧型、右側新型は放熱フィンも付いている。
しかし、このレクチファイヤを交換して尚、症状は改善しなかったのだ・・(;・血・;)

本格的な調査を開始・・・
まずは、こいつの構造や原理を調べてみた。
レギュレータレクチファイヤ回路図
<レギュレータレクチファイヤ回路>
上図はレギュレータレクチファイヤの概略図である。黄色の3つの入力部から赤と青の出力部までがこの部品にあたる。そして、バッテリーの充電が十分に済んでいればバッテリー方面へ電流が流れないようにできているのだ!
 バッテリー電圧が高いとツェナーダイオードに電流が流れるため、SCR=サイリスタがONすることになり、オルタネーター(ACジェネレーターともいう)からの電流はバッテリーを通らずにオルタネーターへと返されます。
 オルタネーター内部にはコイルを巻いたコアが円周上に配置され、磁石がコイルの外周部を回転することで発電されるのです。発電される電圧は磁石の回転スピードに比例するために、高電圧が出力されないようにするためなのか、レギュレータレクチファイヤ部でショートさせるように出来ているのです。
 だから、バッテリーの充電が十分だと、各黄色い端子部には10A以上もの電流が流れます。端子部に少しでも接触不良があるとここに電圧がかかり、熱が発生してコネクタが焦げてしまいます。
 この大電流は黄色い端子から入り、ダイオードとサイリスタを通って別の黄色い端子からオルタネーターへと帰っていきます。各ダイオードには約0.5Vの電圧がかかるためにレギュレータレクチファイヤ自体もかなり発熱します。そのため、バイクの分厚いシャーシ部にしっかりと取り付けられています。
 オルタネーター内のコイルの直流抵抗は0Ωに近く、各黄色い端子間の抵抗値は0になります(正確には0.1~0.2Ω)。
コイルから出力される電圧は±に振幅する交流電圧です。
下図がオルタネーターからの出力電圧波形です。
オルタネーター出力電圧波形1 <エンジン回転数=4500rpm>
幾分いびつな波形ですが±60Vづつ(4500rpm時)の電圧振幅で、周波数は1周期2.2ms=454Hzです。
 エンジンの回転数と一致していないのは、回転部であるフライホイールに+極の磁石と-極の磁石がそれぞれ6ケづつ付いているからだと思います。つまり、フライホイールが1周する間に各コアに±6回=6周期の変動が起きるということです。
 454Hz÷6周期=75.6周、エンジンの回転数は4500rpm÷60秒=75rpsなので、大体一致しているということになります。

オルタネーター出力電圧波形2 <エンジン回転数=1500rpm>
 こちらはエンジンの回転数が毎分1500回転の時のオルタネーターからの出力電圧です。周波数も下がり電圧も低下しています。
この出力電圧測定時はレギュレータレクチファイヤを外して行いました。この部品を取り付けた状態で測定すると電圧が非常に小さくなってしまうからです。
 コイルから流れる電流はコイル内を素直には流れません。電流が流れるほどコイルは励磁され、コイル内部の余計なインダクタンス成分が妨害を引き起こすのです。つまり、オルタネーターのスターターコイルに電流が流れると、このインダクタンスにエネルギーが溜まり、±に振幅して流れようとする電流を押し留めようと働きます。
 結果、出力電流の位相は遅れ、インダクタンスに電圧がかかり出力電圧を低下させてしまうのです。インダクタンスの直流抵抗分は0Ωに近いため、インダクタンスに溜まったエネルギーは損失することなく循環します。
 要するにバッテリーの充電が十分な時には、オルタネーターに電流をたくさん流すことでワザと発電能力を低下させているといったイメージなのです。(発電力=出力電流×出力電圧×力率)
 オルタネーター内部のコイルは、3相それぞれに6極づつのコアが円周上に飛び出しており、合計18極のコアそれぞれに銅線が巻いてあります。この銅線は表面が絶縁コーティングされています。巻いてある隣同士の線と線の間には電圧差が存在しますが、それほど大きくはなく、振動に強くするためにコイル部を接着剤で固めてあり、回転動作をしない側に固定されています。コイル自身が持つ抵抗値により、大きい電流が流れればかなり発熱するはずなので熱を逃がすためにもシャーシ側に取り付けた方が合理的ということなのかな・・。
隣線間の絶縁不良が発生しても、1箇所程度であれば残りの5極が頑張ってくれるのでしょう。
 回転数が上がればそれに応じて発生電圧が高くなる理屈ですから、もしオルタネーターから出ている3相ラインが断線すれば、内部で発生する交流電圧がバイクのシャーシに働きかける容量性電圧は結構なものとなるでしょう。
 走行中に感電では洒落にもならないので、オルタネーターからの発生電圧は低く抑えるよう設計されているのはもちろん、シャーシをアース=0Vとしなければならないということにもなるわけです。
オルタネーター電圧測定風景1
 
オルタネーター電圧測定風景2
オルタネーター出力電圧の測定風景です。
レギュレータレクチファイヤ部のコネクタを外して、オルタネーターから伸びてきている3相交流の黄色い線2本の端子間電圧を測っています。
いつも大きい電流が流れているのでコネクタ部が少し焦げていますね・・・。
   当然のことながら、その次はオルタネーターを疑うわけで・・分解掃除したり、調べたりするわけです。
 もし、何らかの理由でコイル部付近で熱が発生してしまうと、コイルに巻いてある銅線の抵抗値が上昇します。銅線に流れる電流値はかなり大きいので銅線=コイルに電圧が発生し、それにより更に銅線が過熱、コイルや銅線が巻いてあるコア部がどんどん熱くなっていきます。いわゆる熱暴走というやつです。
 これが発生するとコイルは黒焦げになってしまいます。
彼は、オルタネーターも分解して内部を確認していたのですが、内部に異常はなく、非常にきれいだったとのことです。
 ”興味があるからもう一度分解して中身をみせてよとお願いしてみましたが・・こいつを開けると、カバーに付いているパッキンが破れてしまうので、その度にパッキンを交換しなくてはならないということでした。
また次の機会ですね。(>∀<) ハヤクコワレナイカナァ
 出力電流量も測定してみました。
電流検出用セメント抵抗   オルタネーター電流測定風景
 0.2Ω20Wのセメント抵抗2ケを並列に繋げて(0.1Ω40Wとなる)電流ラインに噛ませ、抵抗にかかる電圧から、電流値を測定するのです。
 この配線コネクタ部からは、オルタネーターからの3相配線の黄色い線が3本、レクチファイヤからバッテリー方面へ向かう配線が+12V用(赤に白のストライプの線)と0V用(緑色の線)の2本・・合計5本出ています。
 コネクタを外してから3本の黄色い線のピン間を別の線で繋ぎます(上図では紫の配線;ピンに差すための端子を付けてあります)。そして、3本の中の1つに抵抗を噛ませるわけです。(因みに、3分~5分間の測定でセメント抵抗は触れないほど熱くなりました)
 
さて・・バッテリーを繋がない状態でのオルタネーター電流値はというと・・
オルタネーター出力電流波形1 <エンジン回転数=2000rpm>
縦1マスは1Vなので±2.3Vづつの振幅です。これは0.1Ω抵抗に発生している電圧なので抵抗を流れる電流値は2.3V÷0.1Ω=±23Aづつの振幅ということになります。きれいな正弦波形なので23÷1.4=16.5Aの実効電流値が流れているということになります(3相交流の1相につき)。
電圧の方は、6極のコイルそれぞれで発生する電圧の合成であるため、いびつな波形でした。しかし、電流値は1本の電線を流れるだけなので慣らされてきれいな正弦波になっているようです。

オルタネーター出力電流波形2 <エンジン回転数=300rpm>
こちらはエンジン回転数が300rpmの時のオルタネーターから流れる電流波形です。周波数は低くなっていますが電流値は大きく変わりませんね。
 オルタネーターの方も、こんなに大きい電流や電圧を出力しているのだから壊れているなんてことがあろうはずもありません。
 レギュレータレクチファイヤからバッテリーまでの配線も導通に問題はなさそうです(赤に白のストライプの線と緑色の線)。
この段階で頭を抱えることになります・・・・ドーナッテンダオー(#;˙曲・)
 レギュレータレクチファイヤは新しいものだし・・オルタネーターも問題なさそうだし・・それぞれの配線の接触不良もなさそうだし・・でもバッテリーに充電されている感じが全くしないし・・?
ちょっと面倒だけど、バッテリーへの充電電流も測定してみるしかないな・・・・。
スターターリレー部1
 
スターターリレー部2
 
スターターリレー部3
 左写真はバッテリーのそばにあるリレーです。レギュレータレクチファイヤから出力される充電のための電流は、この部分を通過させてバッテリーへ入れています。
 中央写真は引っ張り出したところです。下に見える円筒形の金属部がリレーになっており、これはエンジンスタート時のセルモーター回転用のリレーです。この太っとい黒線がスターターモーターへ向かう線です。スターターモーターには非常に大きい電流が流れるので、配線が焼けて劣化しないように太くしてあるのです。
 右写真は上部のコネクタを引き抜いたところです。陰に隠れていますがピンは全部で4本あり、これらのピンとは別に30Aのヒューズが取り付けられています。

バッテリー充電電流測定風景
 真ん中に見える白いのがオルタネーターの電流測定にも使用したセメント抵抗(0.1Ω40W)です。全てのピンを接続しないとエンジンをかけることができないのでショートさせないように注意して各線を接続しました。
さて、準備完了!エンジンスタート(;`・ω・)q
ありゃぁ?!
 バッテリーに充電電流が流れ込んでいないよ!・・接続は間違いないよな?もう一度各部からバッテリーまでの導通を・・プラスもマイナスもバッテリーまでしっかり導通してる・・交換した新品レギュレータレクチファイヤの初期不良なのか?
 原因は意外なところにあったのです。原因説明の前に正常時のバッテリーへの充電電流の測定結果をお見せしておきます。
バッテリー充電電流波形 <エンジン回転数=2000rpm>
 これが正常な時のバッテリーへの充電電流です。三角形の波形ですがTOP部は0.85Vなので0.85V÷0.1Ω=8.5Aのピーク電流が流れていることになります。レギュレータレクチファイヤを通ると全波整流されるため、中心から下の山は全て上側へ移動します。
 この測定を行った時はバッテリーの充電は十分な状態で、バッテリー電圧は13.8Vでした。ピークが三角形なのは、間欠充電状態であることと途中まで充電するとバッテリーの電圧が上がるために制御がかかって0にされていることによるものと思われます。また、下に伸びているスパイク成分は、いきなりSCRがONすることによる、ダイオードのリカバリー逆流だと思われます。
   さて、問題の原因ですが・・レギュレータレクチファイヤからバッテリーまでの配線も導通に問題はないと記述しましたが、これが問題大ありだったのです。
 プラス側の赤線もマイナス側の緑線も、レクチファイヤからバッテリーまでは、確かに0Ωに近い値を示していました。しかし、何度か測定を繰り返してみると、緑線の方が測る度に抵抗値が0~30Ωの範囲で毎回違うのです。
 レクチファイヤからバッテリーのマイナス端子までは直に配線で繋がってはいません。レギュレータレクチファイヤから出ているマイナス用緑線はバイクのシャーシ=フレームグランドに繋がっており、バッテリーのマイナス端子から出ている配線もシャーシに接続されているのです。
 つまり、線でバッテリーまでを繋げているのではなく、よく電気を通すシャーシを配線の代わりとしているのです(プラス側は、各部へ配線で繋げている)。
 このレギュレータレクチファイヤから出ている緑線がシャーシに接続されている部分で接触不良が発生していました。それもかなり高い接触抵抗値です。この接触不良部を完全に外してしまっても、バッテリーまでの抵抗値の変化は起きていました。
 下の写真が、緑線がシャーシに繋げられている部分です。ここで接触不良が発生していたのです。
 
フレームグランド取り付け部1          フレームグランド取り付け部2          フレームグランド取り付け部3
 
では、なぜ導通してしまうのか・・いろいろな角度から調べてみましたが原因は分かりませんでした。ただ、エンジンやスタータモーターは動かさずにキーを回して電源ON状態にすると抵抗値は約10KΩへと変化します(こちらも測る度に抵抗値が違う)。
 バッテリーを完全に取り外したり、ニュートラルスイッチを解除したり、スパークユニットを外したり、キースイッチを外したり、サーモスイッチやオイルプレッシャースイッチもコネクタ部で外してみましたが、レギュレータレクチファイヤからバッテリーまでの導通は0Ωに近い値を示し続けました。
 このバイクだけの不思議な特徴なのかもしれませんが、なんにしても今後は、キーを回してONにした時に抵抗値が変化しないことや確実に0Ωをキープし続けていることを、電源ラインの導通を測定する時の鉄則とすることを誓いました。

 今回、いろいろなことを調べたり分解したりする中で、バイクの電気系統技術は私の想像を超えて、実に合理的に画期的に出来ていて使用者の安全を深く考慮して設計されているのだということを思い知らされました。
(*´∀`)・・いやぁ、バイクって本当に面白いですね!

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