≪ 家庭教師 ≫




「ふっ…やっぱ帰んねぇ!」

「えっ?」

「コイツさぁ…いつも強気なんだよなムカつくくらい…」



俺をチラリと見るとまた先生を睨むように笑って応えた


「憎たらしいくらい強気なこのバカがこんな怯えた表情してんだから
どんなスパルタか…興味あんだよねー」

「…………。」




…南雲が…


…南雲がいてくれる…




「……れよ…」

「えっ?翔平くん?」




もう怖くない…コイツがいるから…
一人じゃないし…




「…帰れよ…」

「…?桐野どうした?」




大丈夫…南雲が守ってくれる…
だから…お前なんか怖くないからな!!



「帰れよっ!先生…もうお前なんか必要じゃねぇ!帰れっ!!」

「桐野!!」


いきなり興奮して怒鳴る俺を南雲がなだめるように強く抱きしめる
そして俺を掴む先生の手を払い除けると追い返すように睨みつけた


「悪いけど…アンタ帰ってくれ」


俺の感情爆発の意味は分からないだろう…けどこの先生のせいだっていうことは
鈍感なコイツでも理解はできた…


「君ねぇ…部外者のくせに…」

「二度は言わねぇ…ぶっ飛ばすぞ!」


今にも殴りかかりそうな睨みに先生ももう帰らない訳にはいかず家庭教師は黙って家を後にした


「大丈夫か?桐野…」


俺を支えるように部屋に一緒についてきてくれる…
…ときどき優しい南雲の表情…
そして何がなんだか分からず興奮して震えてる俺の側に付いててくれる


「全く…おまえは泣いたり笑ったり怒ったり哀しんだり…忙しいやつだな」

「…うるせぇ…お前が無表情なんだよ…」


俺の悪態にフッと笑った


「けど嫌いじゃねぇけどな!単純で分かりやすくて」

「…素直に好きって言えよ…」

「言うか!バカ」



心が…和む…
この時間が、ずーっと続けばいいのに…



「なぁ…どうしたんだよ?優しいイケメン先生じゃなかったのか?
そんな怯えてお前らしくもない」

「…べつに…なにも…」

「ふーん…」


それ以上は聞くことなく黙って横にいてくれた


「…あのさ…今日…なんで俺んちに?」

「べつに何も!」

「…ふーん…」



分かってる…たぶん公園で俺の様子がおかしかったからだ
でも…もし本当に南雲が来なかったらあのまま…俺は…
思い出すとまた小刻みに震えてくる…




「なぁ…南雲?」

「あぁ?」




「……嫌だろうけどさ…震えが止まるまで少しだけ肩……抱いててくんねぇかな…」




ざけんなっ!…って怒鳴られるかと思ったけど何も言わずに肩を引き寄せ抱いてくれた…


あぁ…安心する…


そのままその体に身を任せて寄り添った…

…あったけぇ…

ホッとして涙がでてきたが気付いてるのか気付いてないのか…優しく抱きしめ続けてくれる




「桐野…」

「…ん…」




「大丈夫になったら…教えろよ」




それだけ言うと俺の震えが止まるまで…涙が止まるまで黙ってじっと側にいてくれた…。



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